自閉スペクトラム症の方が抱える感覚の問題とは? 関連する本の紹介

専門書

自閉スペクトラム症(ASD)について書かれた本は、
中核症状と考えられている社会性や対人コミュニケーションの問題について
書かれているものが多いと思います。

しかし、ASDの方々が困り事として挙げている中で
見逃せないのが感覚の問題です。

しかしこの感覚の問題に対して
専門的に書かれた本は非常に少ないと思った事はありませんか?

感覚の問題は誤った情報に基づく治療も多く、
それが世間に広まっている例も見られます。

今回紹介する本は、
著者が科学的に妥当な知識である事を基準として
読者に紹介する情報発信として書かれた本だと述べています。

この著書に出会ったことで感覚の問題についての理解が深まり、
子どもたちや保護者に自信を持って説明が出来るようになりましたし、
「そういう事だったのか」と納得して頂ける事が増えました。

是非みなさんにも知ってほしいと思いますので、
次の章から、この感覚の問題に対して書かれている
おすすめの本を紹介します。

本の概要

今回紹介する本はこちらです。

タイトル:科学から理解する自閉スペクトラム症の感覚世界
  著者:井出正和
 出版社:株式会社金子書房

この本を簡単に説明すると、
ASDの方は悩んでいるが一般の方には理解されにくい
「感覚過敏・鈍麻」という問題を
科学的な視点から解説している本です。

感覚についての基礎内容や、ASDの方の感覚の特徴、脳内基盤、
当事者の方の個性的な世界、今後の展望について書かれています。

感覚過敏を持つ当事者の方が描いた絵やイラストもあり、
あまり感覚の問題について詳しくない人でも
分かりやすくて読みやすいと思います。

しかし科学的にしっかりと妥当性を持った内容が書かれているため、
まさに専門的な知識を得るにもうってつけです。

なお、著者はこの本であえて
感覚過敏の対処グッズや対処法の紹介は省いたと述べています。

これは科学的に妥当性の高い情報を伝えるという
著書の目的からずれていく可能性があるためだとの事です。

本書のポイント

続いて私が思うこの本のポイントについて述べていきます。

1.ASDの感覚処理における理論・仮説

本書に書かれている理論の一部を紹介しますと、
「弱い中性統合理論(WCC)」と「知覚機能亢進仮説(EPF)」の関係についてが
とても参考になりました。

弱い中性統合理論とは
「木を見て森を見ず」という言葉でも表されるように、
ASDの方は全体的な様子よりも
部分的な情報を処理する能力が高いというものです。

例としては、絵や写真を見た時に全体の印象や様子よりも
細かな部分(道路の模様や乗り物の種類など)に目がいきがちなため、
全体の様子がよくわからないというものです。

知覚機能亢進仮説は
細部と全体のどこに注意を向けているかによって
情報処理の得意・不得意が変化するという仮説です。

先程の例で説明すると、
今は乗り物の種類に注意が向いているから全体の様子は見ていない
という事になります。

注意を向ける場所の違いが影響を与えている仮説であるため、
特に全体の様子に気付くのが苦手であるというわけではない
という考え方です。

2.理論・仮説を基にした社会性への影響について

著者は先程紹介した理論・仮説が
ASDの方の社会性の問題にもつながっているのではないかと述べています。

弱い中枢性統合理論と知覚機能亢進仮説はそれぞれ、
ニュアンスに違いがありますが
共通しているのは「細かな部分に注意が向かいやすい」という点です。

例えば、
AさんがBさんに、
「C先生によろしくお伝えください」と言ったとします。

後日BさんがC先生に会った時、
「よろしく」とだけ伝えた場合、
C先生は何のことだか分からず困った事になるでしょう。

この場合、
AさんはC先生にお礼を伝えるべき何かがあったこと
BさんはAさんとC先生の関係性を知っていること
AさんはBさんがC先生にお礼が伝わるのを期待していること

ざっと思いつくだけでもこれだけの事を意識しておく必要があります。

しかしBさんがAさんが「言ったこと」にだけ注意が向いていた場合は
上記のような事が起こりかねないのではないでしょうか。

まだ科学的に十分解明されてはいないのですが、
こうした特徴が社会性にも影響を与えているのではないかと
著者は考えています。

感想

この本を読んでまず思ったのは、
書かれている理論・仮説や現象が、
療育場面で出会うASDの方々と一致するなと感じる事が多い点です。

ASDの方の問題点として真っ先に考えられるのは
人とのコミュニケーションや表情の認識といった
社会性の問題です。

その点を指摘したうえで本書は
感覚処理の特徴が社会性に影響を与えている可能性について
述べているのがとても印象に残りました。

まだ科学的に解明されていない部分ではありますが、
日々ASDの子どもたちと関わっている私は
納得できる部分が本当に多くあります。

感覚の問題は作業療法をはじめとする
子どもと関わる現場で発展してきた概念であり、
少しずつ科学的な視点で明らかになってきた内容が
この本には書かれています。

作業療法に限らず子どもの療育に携わるすべての人が
感覚の問題に対して根拠を持って取り組む事が重要で、
実際にこの考えを利用しながら子どもと関わる事で
変化があると実感しています。

まとめ

「科学から理解する自閉スペクトラム症の感覚世界」は
感覚に問題を抱えている当事者の方はもちろん、
自閉スペクトラム症のある方を支援するみなさんにも
是非読んでもらいたい1冊です。

興味を持った方はお手に取ってみてください。

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