みなさんは自閉スペクトラム症の子どもの
感覚や運動に対するアプローチを思い浮かべた時、
感覚統合が出てきた人が多いのではないでしょうか
また、日々の療育の中で
自閉スペクトラム症の子どもたちの
コミュニケーションを伸ばしたいと考えている人も多いと思います。
今回紹介したい本は
感覚統合について書かれている他にも、
感覚刺激を用いて子どものコミュニケーション面を伸ばしていく
アプローチが書かれています。
感覚統合の理論について書かれている本はいくつかありますが、
具体的な実践について書かれているものは数が少ないです。
それに感覚刺激を用いながらコミュニケーションを伸ばしていく
実践が書かれている本はもっと少ないと思います。
療育の場面では
まさにここを知りたい・勉強したいと思っている人は
多いと思いますし、私もその一人です。
そのような方におすすめしたい1冊があります。
この本を読むことで、
みなさんの子どもへの関わり方が変化し、
活動の引き出しを増やすことが出来ると思います。
関わりの引き出しを増やすことができると、
子どもが楽しんで活動に参加してくれるようになります。
そんな様子を見れば保護者も嬉しく感じますので、
みんなの笑顔が増えることにつながっていきますよね。
次の章から、私の引き出しを増やしてくれた
本の紹介をしていきます。
本の概要

今回紹介する本はこちらです。
タイトル:自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法
著者:岩永竜一郎
出版社:東京書籍株式会社
この本は自閉症スペクトラム(ASD)の児童に対する
感覚統合理論に基づく療育アプローチや教育、
感覚刺激を使った対人関係発達のためのアプローチについてが、
研究内容や著者の経験に基づいて書かれています。
著者はこの本の目的は2つあると述べています。
1つめは感覚統合理論や、
感覚処理障害に関する研究に基づくASD児の行動理解と
介入アプローチを紹介する事です。
2つめは身体への感覚刺激を使ってASD児の対人交流能力を伸ばす指導を
紹介する事です。
本書には感覚統合に関する内容が多く含まれていますが、
感覚統合以外のアプローチ方法についても述べているため、
タイトルには感覚統合という言葉を使わず、
「感覚・運動の問題への対処法」としているとの事です。
なお、この本は「自閉症スペクトラムの子どもへの感覚・運動アプローチ入門」
という本に、新たな情報を加筆したものになっています。
章ごとに本書の内容を見ていくと、
自閉症スペクトラム児の感覚調整および運動に関する問題点が書かれており、
それらのアセスメントおよび支援計画までの流れや、
感覚プロファイルという質問紙による感覚のアセスメントについても書かれています。
また、感覚調整が苦手なASD児に対して、
訓練室・生活場面・学校・歯科での具体的対応が書かれています。
加えて、感覚刺激を使ったコミュニケーション指導や
感覚統合療法の効果についても述べられています。
本書のポイント

ここからは私が思う本書のポイントを紹介します。
1.自閉症スペクトラムの感覚の問題の解説が詳しい
自閉症スペクトラムを持つ人には、
感覚と運動の両方に問題を持っている人が多くいます。
それぞれの詳しい説明は著書を参考にして頂ければと思うので
ここでは簡単に説明しますと、
五感(視覚や聴覚など)の感じ方の問題
運動を成功させるためのイメージ作りの問題
この2つに大きく分けられます。
五感の感じ方の例としては
触覚:衣服のタグが嫌 ベタベタしたものが嫌 水を常に触り続ける など
聴覚:特定の音が嫌い(ドライヤー・電車など) 呼びかけても気付かない など
視覚:回るものを見続ける 蛍光灯の光が苦手 など
他にもたくさんの例が考えられますが、
自閉症スペクトラムを持つ人には、
こうした感じ方の特徴が見られる事があります。
運動を成功させるためのイメージ作りの問題は、
例えば自転車を例に挙げると、
自転車に乗るまでには大まかに次のステップを踏むと考えられます。
1.自転車のハンドルに手をかける
2.自転車にまたがる
3.自転車を少し前進させてバランスをとる
4.ペダルをこいで進む
これら一連の流れを円滑に行っていくためには、
身体をどのように動かせば良いのかのイメージが
しっかり出来上がっている必要があります。
しかし自閉症スペクトラムの方はこの運動のイメージを
適切に組み立てていくのが苦手で、
周囲から「不器用」に見えてしまうのです。
本書はこれら2つの問題についてを詳しく解説しています。
特に感覚の受け取り方に関する解説では、
療育の現場で見かける子ども達のアセスメントをする上で
大変参考になる記述があります。
詳しくは私の感想の部分で述べていきます。
2.感覚刺激を使ったコミュニケーション指導が書かれている
この本の著者は
自閉症スペクトラムを持つ子どもに
感覚刺激を用いてコミュニケーションをとる事で
望ましい行動を誘導したり増やしたりできると考えています。
この感覚刺激を自閉症スペクトラムの子どもの支援に活用する方法は
いわゆる感覚統合療法に基づいたものではありません。
この点は著者もはっきりと述べています。
この感覚刺激をコミュニケーションに用いるという方法は
他の著書にはあまり書かれていない事から、
本書が持つ特徴の1つだと考えられます。
用いる感覚刺激の例は、
高い高い
ブランコで揺らす
足を持って揺する(振動する)
などが挙げられています。
こうした感覚刺激を好む自閉症スペクトラムの子どもは
自身が楽しい・もっとやってほしいと感じた時に
積極的にその活動をしてくれる人に近づいていくようになります。
この考え方は応用行動分析も参考にしているようです。
感覚刺激を使っていく事で子どもが他者に興味を持っていくのを
促す効果が期待できます。
本書には具体的な活動例や事例も書かれています。
感想

この本は作業療法士によるASDの方への治療アプローチや
コミュニケーション・生活場面・特別支援教育での
具体的実践が書かれていますので、
これらはもちろん参考になりました。
私は今でも実際に取り入れていますし、
ご家族や支援者にも是非知ってほしい内容です。
そして特に私が勉強になったのは、
感覚統合理論で述べられている
感覚処理の問題(感覚調整障害)についての解説に加え、
神経生理学的な感覚・情報処理についても書かれている点です。
感覚・情報処理のプロセスは非常に複雑で、
その全てが未だ解明されてはいませんが、
「感覚入力」「知覚処理」「意味処理」「決定・記憶など」
という段階があるとされています。
ある時期、私はASDの子どもと関わっていて
「〇〇に触るのはとても嫌なのに、△△はしつこいくらい触る」という様子を見て、
これはどういうこと?と悩んでいました。
同じ触覚なのに両極と言える行動が混在している事が理解できなかったのです。
しかしこの本を読み
感覚処理は「意味処理」「記憶」の段階もある事を知った事で、
触れているものをどう認識(イメージ)・記憶しているかも
重要であることに気付きました。
触覚は過敏や低登録(鈍麻)といった現象がきれいに分かれて
しかもどれか1つのみが現れるわけではなく、
触れている対象とその人のイメージ・記憶によって変化する事を学びました。
まとめ
「自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法」は、
作業療法士が日々の取り組みで用いているであろう
感覚統合理論を知る上でぜひ読んでほしいです。
また、生活支援や学校での取り組みも書かれていますので、
ASDの子を持つご家族や
作業療法士以外の支援者の方にもおすすめです。
興味を持った方は是非読んでみてください。
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